今回読んだ本
この本を選んだきっかけ
いつものようにYouTubeを見ていると、おすすめに「千原ジュニアYouTube」の動画が出てきて、ふとその動画を見ると「カモシダせぶん」というお笑い芸人との対談の動画でした。「カモシダせぶん」は無類の本好きで自宅に3000冊の収蔵していたのですが、火事に合いほとんどの本が焼失したというエピソードを持つ芸人です。その芸人が千原ジュニアにお勧めする本の中の一つにこの本「暃(5A73)」があり、幽霊文字をテーマにしている本ということで仕事がら文字コードを触ることがあることから興味を持ちました。
簡単なあらずじ
とある自殺志願者から紡がれる自殺の連鎖。すべての死体にはタトゥーシールで「暃」が刻まれていた。調べても読みも意味も分からないこの文字に何の意味があるのか?二人の刑事はその関連性を追うことに。様々な調査の末、ヘッドフォンの男がすべての自殺者に関連していることを突き止める。ヘッドフォンの男は犯人なのか、それとも。。。?
面白かったところ・感情が動いたところ
やはりまずは「暃」という意味も読みもない文字を題材にして話が進んでいくというところが面白かったですね。二人の刑事が自殺者に刻まれたこの文字がどう関係しているのかを調査していくのですが、上の文字の「日」と下の文字の「非」がどちらも「ヒ」と読めるからそう読むのか?とか、「日に非ず」という意味で「ヨル」と読むのではないか?とか「罪」に似ていることからそういった意味で使われたのではないか?とかいろいろな案をだしあっている刑事たちを見ていると、こちらまで「どういった意味が隠れているのだろうか?」と色々考えてしまいました。それがきっと作者の思惑だったのかなと読み切った今となっては思いますが、そうやって読みながら色々勘案するのはミステリー小説の醍醐味だなと思います。
章立ての構成も面白く構成されていて、刑事2人の捜査の章と各自殺者の章とが交互に章になっていて少しずつ謎が紐解かれていく様子がきちんと描かれていて、見ているこちらを飽きさせないように作られていました。自殺者はそれぞれ死んでいった順番に登場するのではなく、二番目に死んだ「湯村文」から始まっていて、一番目に自殺した「尾倉陸久」と出会うところから始まり、尾倉の自殺現場を湯村が発見してそこに書かれている「あの文字」を発見し、そこからどんどん「あの文字」を次の自殺者にバトンのように受け継いでいくというストーリーになっています。また、なぜ自殺者は「あの文字」を体に書いて自殺していくのか?という謎も最後の最後までわからない構成になっていて、大変読みごたえがありました。
最後の結末がほんとに予想だにしないというか、賛否両論ありそうな結末だったなと思います。読み終えた後にこの本のレビューサイトを観ましたが「こんなのミステリー小説じゃない」という人もいて、「確かになぁ」と思う反面。こういう「ミステリー小説があってもいいんじゃないか?」と心の中では思えるいい作品だったのかなと思います。
この本のテーマ
「暃」この文字、あなたならどう読みますか?それがこの本のテーマだと思いました。
自分の体験談や、社会で起こっていること
JIS規格に収録されている漢字の総数は約1万。色々な古い文献で使われている漢字を一つ一つ拾い集めて「これは一緒」「これは違う」というように手作業で割り振って最終的にこれで行きましょうとなったのがJIS規格です。やはり人の手で振り分けるわけですから間違いがあるのは当然で、幽霊文字が12文字のみというのは逆にすごいことなのではないかと思います。私はテストエンジニアですが、10000件テストして、テストミスが12回で抑えられるか?というと不安しかありません。逆にたった12文字で抑えられたことは偉業なのではないかと感じます。写真に写りこんではならない何かのように、この世のものではない何かがJIS規格に紛れ込ませた何か、そういう妄想を掻き立てるのも致し方がないと思わせる異様さがあります。
自分の意見
この文字をネットで調べると「ヒ」という読みが出てきます。そして「杲」の誤植なのではないか?ということも記載されていて、Wikipediaにはこの文字は幽霊文字であるとしっかり書かれています。ただ、ここで調べ終わらずに、いろいろな妄想を膨らませて、この作中の登場人物のように「こういう解釈もできるよね」「いやいや、こういう解釈はどう?」みたいにいろんな人と話しながら自分たちで意味づけしていくのも面白いのかなと思いました。昨今はインターネットで調べるとすぐに答えが出てくる時代ですが、その時代にあって、こういうある種の謎めいたものはまだまだ眠っている気がします。そういう謎が掘り起こさて日の目を見る機会が与えられるというのはとても興味深いのではないでしょうか?
ちなみに私は「暃」がダンスしている人に見えます。にしきのあきらがよく切る腕にひらひらがついているような服で踊っているような。そいういう情景が見えます。